街道で牧場主が20人近い悪漢たちに囲まれ、あっさり射殺されて10万ドルが奪われる。旅から戻った息子ジャンゴが犯人を追う……。と、
いってみればそれだけの物語で、ジャンゴ(ショーン・トッド)は見た目は地味だが、ひたすら強く、早撃ちで敵をなぎ倒す。元祖ジャンゴのようにリンチされて傷だらけになることもなく、女に惑うこともない
(妹しか出てこない)。悪人は何人か出てくるが、みな部屋か広場に立ってセリフを言っているばかりであまり活動しない。撃ち合いは、移動したり場所を変えて敵を狙ったりすることはなく、すべて決闘スタイル。勝負は一瞬で決まり、みな次々に地面に倒れこむばかり……
これはいったいどうしたことか……
答は簡単だ。脚本がなく、予算もないので複雑な撃ち合いシーンなどは展開できない。血のりを用意したり、小道具を壊したりするのはお金がかかる。ゆえに、誰もが決闘スタイルでゆったり正面に構えて、撃たれたら倒れる、というわけだ。
もちろん
金もない代わりにアイディアはいろいろ盛り込まれている。コメディリリーフ的存在の棺桶屋の老人は『荒野の用心棒』[1964]、酔っ払い老人は『リオ・ブラボー』[1959]からのイタダキ。最後の決闘が、とにかく
顔のアップで長引かされているのは、もちろんセルジオ・レオーネの影響
(パクリ)だ。
ヒーローの相手役(恋人)が登場しないのも珍しいが、演じているのがショーン・トッド(アイヴァン・ラシモフ)とラダ・ラシモフという、セルビア系イタリア人の
俳優兄妹なので、
そのまま兄妹役にしたのだろう。途中から現れてラスボスになる殺し屋ホンド(ジョン・ウエイン主演作に『ホンド―』[1953]があった)を演じているのが、脚本を担当したヴィンチェンツォ・ムソリーノ(脚本はグレン・ヴィンセント・デイヴィス名義)なのも、
なにやら人手不足の感がいなめない。
ブームに乗って続々誕生・乱発されたマカロニ・ジャンゴ物の中で、幸運にも後に評価されカルト化した名作が『
情無用のジャンゴ』(原題「お前が生きていたなら撃て!」)だとすれば、『
待つなジャンゴ引き金を引け』(劇中に同じセリフが登場する。
が、ジャンゴはなかなか引き金を引かない)は、ブームの中で生まれた
数多のトンデモ失敗作を代表する一本だろう。日本やアメリカ、また(ビデオプレイバックで確認しながら撮影される)現代の映画作りでは
決して生まれることがないに違いない貴重な映画遺産であり、1960年代のイタリア映画人の底力……いや、
したたかさを十分にみせつけてくれる一本である。