ジャンゴ……
ではなく、名もない流れ者の主人公は、金塊強盗団に加わっていたが、強奪成功後に首謀者たちに裏切られ、仲間の農民たちと共に墓を掘らされ、銃弾の嵐を浴びる。が、運よく生き残った彼はインディアンに助けられる。たどり着いた町の住民はみな強欲で、先に着いた強盗団は皆殺しにされて金塊も奪われていた。派手な衣装を身にまとったボスに率いられたゲイ集団はじめ、悪党だらけの町には、幽閉された女や男色の餌食になる美青年(レイモンド・ラブロック)がいた。インディアンは殺され、流れ者も捕らえられて十字に縛られて拷問を受ける……。
墓場から復活し、半裸で十字に縛られてムチ打たれる主人公はまさしくキリストを思わせる。監督クエスティいわく、強盗団の非道な裏切りも、愚かで自分勝手な住民たちも、
二次大戦時にパルチザンとしてファシストと戦っていた時に見た世界が投影されているという。白昼、町の広場に逆さ吊りにされる強盗団の死体は、
まるでムッソリーニの最期を思わせる描写だ。そして、黄金の銃弾で撃たれた男の腹を指でほじくり、インディアンの頭の皮をはぎ取る残酷描写は物議を醸し、同性愛描写を含めて
イタリアでは裁判沙汰になり、上映中止に追い込まれた(のちに一部残酷シーンなどをカットされたバージョンで一般公開されたという)。
残酷&男色描写と大胆で神経を逆なでするような画面編集(クエスティの盟友フランコ・アルカッリが担当)から、
“シュールレアリズム”的マカロニ・ウエスタンとも評され、レオーネ、コルブッチの娯楽作品とは一線を画していた。
まさにマカロニの極北にあるともいえそうな『
情無用のジャンゴ』だが、
公開後に評価はウナギのぼりとなり、
今や『続・荒野の用心棒』と並ぶマカロニ・ウエスタンを代表するカルト作とされている。
スティーブン・スピルバーグが『プライベート・ライアン』[1998]製作中に参考に観ていたという証言もある。
「ジャンゴ」の名のもとに「なんでもいいから西部劇」を発注されながら、独自の映像表現の中にさまざまな人間描写・社会批判を強烈に盛り込んだ異端のマカロニ・ウエスタン『
情無用のジャンゴ』には、
本物の「ジャンゴ魂」が宿っているように思える。