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それぞれが抱える秘密が明らかに…。『ベルグレービア 新たなる秘密』を『ダウントン・アビー』ファン目線から紐解く!(文/渡邉ひかる) original image 16x9

それぞれが抱える秘密が明らかに…。『ベルグレービア 新たなる秘密』を『ダウントン・アビー』ファン目線から紐解く!(文/渡邉ひかる)

解説記事

2024.06.12

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『ダウントン・アビー』の制作スタッフが再集結し、19世紀ロンドンの超高級住宅街ベルグレービアを舞台に、複雑に絡み合っていく人間模様をスリリングに描いた人間ドラマ『ベルグレービア 新たなる秘密』を、「ファン目線」から映画&海外ドラマライターの渡邉ひかるさんに解説していただきました。

ベルグレービア 新たなる秘密

© Carnival Film & Television Limited 2023.

 「ダウントン・アビー」の中に、推しキャラはいるだろうか。ちょっと頭は固いが優しいグランサム伯爵か、歯に衣着せぬバイオレットおばあさまか、頑固でプロ意識の高いカーソンさんか、厄介者だが根は悪くないバローか。2010年から2015年までTVシリーズとして放送され、その後2作の映画も製作された「ダウントン・アビー」は全世界の視聴者を夢中にさせた。伯爵一家が暮らす大邸宅“ダウントン・アビー”に出入りする人々を見つめた群像劇になっているため、興味を掻き立てられる登場人物は見る者それぞれ。ある人は伯爵一家の人生を見守る気持ちだっただろうし、またある人は伯爵一家に仕える使用人たちの事情に興味津々だったのではないか。
 個人的な告白で恐縮だが、グランサム伯爵一家の未来を担う3人の令嬢たちが好きだった。長女然としていて周りからは完璧な女性と言われているが、言い換えればお高くとまっていて、不器用な面も見せないようにしているメアリー。そのメアリーに必要以上の劣等感を抱いてしまっているため、懸命さが上手く作用していない次女のイーディス。伯爵家の三女という立場に息苦しさを覚え、自由に生きたいと願っているシビル。シーズン1が1912年のイギリスから始まり、シーズン2は1916年、シーズン3は1920年と進んでいく「ダウントン・アビー」の世界だが、彼女たちが生きていたのは決して女性が生きやすい環境ではない。一見華麗な貴族の世界ではあるものの、彼女たちの前に突きつけられるのは「女だから」という理由で爵位すら簡単には継がせてもらえない理不尽な現実。その違和感と冷静に付き合っていこうとするメアリーも、違和感を自分の正義に変換しようとするイーディスも、末っ子のバイタリティで違和感を真っ向から打破しようとするシビルもまるごと愛おしかったし、だからこそ三者三様の恋愛模様や人生の浮き沈みに一喜一憂させられもした。
ベルグレービア 新たなる秘密

© Carnival Film & Television Limited 2023.

 そんな「ダウントン・アビー」の生みの親にして自身も男爵の爵位を持つ名脚本家にしてヒットメイカー、ジュリアン・フェロウズが「ダウントン・アビー」のスタッフ共々新たに手掛けた「ベルグレービア 新たなる秘密」にも目の離せない主人公がいる。彼女の名はクララ・ダン。危なっかしい主人公と言ってもいいかもしれない。「ベルグレービア 新たなる秘密」の中心人物であり、若く美しい没落貴族のクララは物語の冒頭、真面目で誠実そうなフレデリック・トレンチャード卿に見初められて結婚。立派なお屋敷に、よく訓練された使用人たち、優しくてイケメンの旦那様、それらすべてが揃った完璧で甘い新婚生活……。父の死後、母や姉と共に倹しい生活を送らざるを得なかったクララにとっては夢のような暮らしが始まる。だが、理想の旦那様に見えたトレンチャード卿は生い立ちにトラウマを抱えていて、精神的にも肉体的にもクララの気持ちになかなか応えてくれない。それでもなんとか妻の役目を果たそうとするも、両者の間にある溝はやがて大きな事件へと繋がっていく。
 「ダウントン・アビー」の三姉妹を「まるごと愛おしい」と言ったが、もちろん彼女たちの行動にはツッコミを入れたくなることも時にあった。いや、そこでケンカするのかい。そのタイミングで優雅にティーをいただくのかい。そこで泣くのかい、笑うのかい。それもこれもシリーズを担ってきた登場人物たちに対する愛情、そして視聴者の特権とも言える身勝手な親近感ゆえだが、クララとトレンチャード卿にもとにかくハラハラさせられ、ちょっと強めに背中を押したくなる。トレンチャード卿が抱えるトラウマに関しては「ベルグレービア 新たなる秘密」の前章にあたる「ベルグレービア 秘密だらけの邸宅街」が理解の助けになるのだが、ここはあえてクララと同じスタートラインで物語を楽しむのも一興かもしれない。おそらく、そのほうがクララの危なっかしさをとがめる気持ちは起こりにくい……はず。彼女にとってトレンチャード卿は、こんなにも真っ直ぐな愛情を向けているのに、なかなか心を開いてくれない厄介な伴侶。その事情をクララと一緒になって解き明かしていくほうが、やがてボヘミアンの自由な生き方に憧れたり、不倫を疑われたりもするクララの決意のドラマに声援を送ることができる。
ベルグレービア 新たなる秘密

© Carnival Film & Television Limited 2023.

 「ベルグレービア 新たなる秘密」はタイトル通り、「ダウントン・アビー」のシーズン1冒頭(1910年代)から40年ほど遡った1871年のロンドン、裕福層が家を構える高級住宅街のベルグレービアを舞台にしている。ちなみに、ジェイン・オースティンが1796年に執筆し始めたという名作小説「高慢と偏見」の舞台は、18世紀末から19世紀初頭にかけたイギリスの田舎町。また、特にドラマ版には時代的フィクションの要素も多分に注入されてはいるが、話題の「ブリジャートン家」シリーズの舞台は19世紀初頭のロンドン。身分や資産状況、暮らす土地柄はそれぞれだが、「高慢と偏見」のエリザベス・ベネットも、「ブリジャートン家」のダフネ・ブリジャートンやペネロペ・フェザリントンも、結婚問題に対して積極的に一喜一憂せざるを得なかった。彼女たちの物語から半世紀以上を経たクララの状況もこと結婚問題に関しては大差なく、彼女と夫のあれこれが人生の一大事であり、物語の大きなスリルになっているのは確か。劇作家としても数々の名作を残しているヘレン・エドムンドソンが番組のショーランナーとして脚本を執筆し、ヒロインの目覚めのドラマと彼らを取り巻く人間模様のミステリーを上手く融合させている。
 一方、「ダウントン・アビー」はと言えば、どんどん現代に近づいている。特に劇場版第2作となる『ダウントン・アビー 新たなる時代へ』は原題も“Downton Abbey:A New Era”で、舞台は1928年。海を渡ったアメリカからの撮影隊ご一行が、ダウントン・アビーで映画撮影を行うことになる。ちょうどハリウッドがサイレント映画からトーキーへの過渡期を迎えているというのも、時代の流れを感じさせるところ。そんな中、今やダウントン・アビーの事実上の家長となりつつあるメアリーが采配を振る。そもそも、撮影隊が屋敷に招き入れられたのは、老朽化した屋敷の修理費を賄いたいメアリーの発案によるもの。シーズン1当初は夫探しに必死だった彼女が、たくましい家長ぶりを発揮しているのが頼もしく、古風な父・グランサム伯爵との新旧の図式も浮き彫りになる。ここまで来るとあんなにも大勢の頭を悩ませていた結婚問題は影を潜め、実際、メアリーの夫であるヘンリーは全く登場しなかったのだが、これに関してはヘンリー役のマシュー・グードが別のドラマの撮影に取り掛かり、スケジュールの都合がつかなかったそう。果たして、待望の撮影も始まった劇場版第3作にヘンリーは登場するのだろうか。マシュー・グードよりも先に、第2作でメアリーと少々いい雰囲気になっていた映画監督、ガイ・デクスターを演じるドミニク・ウェストの出演が確認されているのが気になるところだが……。さておき、ひたすらエレガントで、古風な味わいも含めて人気を博していた「ダウントン・アビー」で、軽やかに息をするヒロインたちを目にすることになるとは嬉しい驚き。「ベルグレービア 秘密だらけの邸宅街」が主人公一家の新世代にスポットを当てた「ベルグレービア 新たなる秘密」へと繋がっていったように、「ダウントン・アビー」もこのまま世代をまたいで展開していけばいいのになとすら思う。
ベルグレービア 新たなる秘密

© Carnival Film & Television Limited 2023.

ベルグレービア 新たなる秘密
ドラマ公式ページ:https://www.star-ch.jp/drama/belgravia_nc/1/

▼放送
<字幕版>6月11日(火)より 毎週火曜 23:00 ほか
<吹替版>6月13日(木)より 毎週木曜 23:00 ほか


▼配信
<字幕版・吹替版>スターチャンネルEXにて全話配信中

<ストーリー>
1871年のベルグレービア。新興成金一族ながら現在は貴族の称号を得たトレンチャード家の嫡男フレデリックは、若く美しい女性クララを見初め、すぐに結婚する。理想的なカップルのふたりだったが、フレデリックは幼少時に父親から受けた扱いにより心に傷を抱え、妻に心を開くことができずにいた。フレデリックに疎遠の弟がいることを知ったクララは、兄弟の仲を取り持つことで夫の心を開かせようとする。一方、フレデリックは事業を拡大するために裕福な未亡人のエタニャック侯爵夫人に近づく。さらに、ベルグレービア社交界のトップに君臨するロチェスター公爵夫妻にも隠された秘密があった…。それぞれが抱える秘密が明らかになるにつれ、運命の糸はもつれあい、それぞれの人生は思いがけない方向へと展開していく。
ハッシュタグ:#ダウントン・アビー #ベルグレービア #イギリスドラマ #英国 #海外ドラマ#解説 #考察 #コラム
<著者プロフィール>
渡邉ひかる(映画&海外ドラマライター)

ビデオ業界誌編集を経て、フリーランスの映画&海外ドラマライターに。
映画誌、ファッション誌、TV誌などで執筆中。毎日が映画&海外ドラマ漬け。
人生ベストは「ザ・ホワイトハウス」。
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